糖尿病の生活指導・内服治療について
糖尿病は生活習慣病であり、その治療の基本は日頃の食べ過ぎや運動不足を気を付けることです。食事・運動療法を頑張りつつ、薬物治療を併用し、血糖値の1~2ヶ月の平均の値であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)をコントロールすることが大切です。まさに患者様と医師が二人三脚で治療していく必要がある病気になります。
当院はHbA1cの迅速測定機器を導入し(なんと、たったの)3分で結果説明が出来ます。
食事療法
無理なダイエットは厳禁!きちんと3食食べて、食事バランスに気を付けましょう。
食事療法は糖尿病治療の基本です。適切な薬を使っていても、食べ過ぎや偏った食事が続いていては、なかなか血糖は下がりません。
食事はバランスよく3食きちんと食べましょう。食事の食べる順番も急な血糖上昇を抑えることに有効と言われています。野菜から食べ始め、お肉・魚、そしてお米、パンといったように、糖質の少ないものから順に食べる工夫も大切です。
また過度に食事制限をしてしまう方もいます。食事量を減らすと始めは脂肪が減り、体重も減って、血糖も下がりますが、いずれは筋肉量も減ってしまい、痩せづらい体になってしまいます。
活動量などにより、食事量は異なりますが、腹八分目が一つの目安です。間食も控えると良いでしょう。
昨今は糖質制限ダイエットも流行っていますが、こちらもやり過ぎると、糖質を取ったときにすぐにリバウンドしてしまいます。パンや、パスタ、お米など日本人の主食は炭水化物が多いですが、やや控えめにするようにし、おかず中心の食事にしましょう。もちろん甘いものやジュース、果物など糖分が多いものは控える必要があります。
当院では管理栄養士も在籍しており、専門的な栄養指導を行っています。医師と管理栄養士が連携し、薬物治療のみならず、食生活をきちんと正すことで、病気になりにくい、健康的な体を一緒に作っていきましょう。
運動療法
マイペースで長く続けられる運動習慣を作りましょう。
運動には、インスリンの抵抗性を改善し、血糖を下げる効果があります。有酸素運動(息が切れる程度の軽度な運動)と言われるウォーキングやジョギング、水泳などが有効です。無理をして止めてしまうよりは、長く続けられるペースで運動習慣を身に付けましょう。また筋力量が減らないためにも、無酸素運動(筋肉トレーニング)も併用するとより有効です。
薬物療法
薬物治療は大きく分けて以下の5つとインスリン治療があります。
インスリン分泌を促す薬
超速効型インスリン分泌薬
服薬するとすぐにインスリンの分泌を促す薬です。食後高血糖を抑えるために、食事の直前に内服します。
薬を内服した後すぐに食事を摂らないと、低血糖になることがあるので気を付けましょう。
薬の効果は短いので、比較的軽症の糖尿病の方に使われます。
スルホニル尿素薬
長時間作用し、インスリンの分泌を促進する薬です。血糖を下げる効果は強いですが、空腹のときにもインスリンが出続けるため、他の薬に比べ低血糖になりやすく、また血糖が下がると食欲が増え、食べ過ぎてしまったり、インスリン量が増えすぎると体重が増加しやすいといった副作用があります。
インスリンの効き目を高める薬
ビグアナイド剤
肝臓からの糖新生を抑制し、小腸における糖の吸収抑制、筋肉や脂肪組織での糖取り込みを促進することで、インスリンの抵抗性を改善する薬です。肥満の方に効きやすく、糖尿病の初期から使用されたり、他のインスリン分泌を促進する薬と併用されたりすることが多いです。
チアゾリジン系薬剤
チアゾリジン系薬剤は、脂肪細胞の分化を促進することで、アディポネクチンの分泌量を増やします。アディポネクチンにはインスリンの働きを良くし、筋肉や脂肪で糖を代謝させやすくする作用があります。
体に水を貯め、浮腫んでくる副作用があるため、水分制限が必要な、慢性心不全、慢性腎不全などがある場合は使えません。
糖の吸収を遅らせる薬
αグルコシダーゼ阻害薬
食事前に飲むことで糖の吸収を抑え、急な食後高血糖を抑える薬です。糖類には単糖類、二糖類、多糖類があり、二糖類、多糖類は最小単位である単糖類まで分解されて吸収されます。αグルコシダーゼは二糖類、多糖類を単糖類へ分解する酵素ですが、これを阻害することにより、糖の吸収を抑えています。
副作用として、腹部膨満、おならが出やすくなる、肝機能障害などがあります。この薬単剤では低血糖にはなりにくいですが、他の薬と併用して低血糖になった時には、ブドウ糖(単糖類)を摂取する必要があります。
糖を尿から排泄する薬
SGLT2阻害薬
尿管には尿中の糖分を再吸収し体内に再び取り込む機能があります。この再吸収を阻害し、尿糖の排泄を増やし、血糖を下げる薬がSGLT2阻害薬になります。
糖の再吸収が抑えられるため、体重減少効果があり、特に肥満がある人には高血圧や高脂血症の改善効果も期待されます。
副作用としては、尿量が増えるため、頻尿や多尿になり、体が脱水状態になりやすいです。脱水になると血液がドロドロしてしまったり、皮膚の乾燥や皮膚炎を起こしてしまったりします。
また、糖は、菌にとっても栄養分であり、膀胱炎や、尿路感染症、陰部の痒みなどの副作用もあります。
投与開始初期や、特に夏場には水分をいつもより多めにとりましょう。1日あたり500mlほどいつもより余計に水分を取ると良いとされています。
インクレチン関連薬
食後に小腸や十二指腸から分泌されるホルモンでインクレチンというホルモンがあります。インクレチンには食後の高血糖に合わせて、膵臓からインスリン分泌を抑えて、血糖を上げる作用のあるグルカゴンを抑える働きがあります。
DPP-4阻害薬
インクレチンを分解する酵素DPP-4を阻害する薬です。食後にインクレチンが分泌されてもDPP-4によってすぐに分解されてしまいます。このDPP-4を阻害することによって、インクレチンの量を増やし、その作用を持続させることが出来ます。インクレチンは血糖が高い時により分泌され、血糖が低い時にはあまり分泌されないため、低血糖・体重増加といった副作用が少ないことが特徴です。
GLP-1受容体作動薬
GLP-1とはインスリンの分泌を促すインクレチンの一つです。体内ではGLP-1はDPP-4という酵素に分解されてしまい、短時間でしか存在できません。このGLP-1の構造を改良しDPP-4に分解されづらく、効果を持続させる薬がGLP-1受容体作動薬になります。前述の内服薬のDPP-4阻害薬に比べ、効果が強く、体重を減らす効果もあります。副作用としては吐き気と下痢など胃腸症状が出ることがありますが、一時的で時間とともに落ち着いてきます。自己注射する製剤になりますが、週に1度打つだけの薬もあり、低血糖も少なく、効果も強いので、インスリン導入前に使用できる薬剤になります。
インスリン注射について
インスリン注射とは
すい臓のβ細胞の機能が極度に低下した場合は、飲み薬だけでは十分な効果を得られず、血糖値をコントロールするのは難しくなります。そこで用いられるのが、インスリンです。インスリンはタンパク質であるため、口から摂取すると分解され体内へ吸収できません。従って、注射による治療になります。基本的には自宅で決められた回数をご自身で打つ形になります。
インスリン注射には抵抗がある方が多く、治療が遅れてしまいがちですが、早めにインスリン注射を開始した方がまだ内因性のインスリンが存在するため、少ないインスリン量で血糖値をコントロールできるようになります。そのため、低血糖になる可能性が少なく、合併症を防ぐことにも繋がります。
インスリン注射の針は通常の注射の針と比べてかなり細く、ほとんど痛みは感じません。導入初期は、医師、看護師、薬局で打ち方の訓練を行います。心配があればいつでも来院してもらい、自宅で打てるようにサポートをしています。内服でコントロールできない高血糖状態を放置することは危険です。内服のみで粘らずに早めにインスリン注射の導入も検討するようにしましょう。
一度始めたらインスリンはやめられないの?
糖毒性と言って、血糖が高いことによりインスリンの分泌が抑えられたり、インスリンの効き目が悪くなったりすることがあります。この糖毒性を解除するために一時的にインスリンを使用することがあります。糖尿病の発症間もない方や、早めにインスリンを導入した場合は、血糖コントロールが良好になれば止められる場合もあります。しかし、罹病期間が長い方や、Ⅰ型糖尿病の方は、インスリン治療を止めることは難しいでしょう。自己判断せず、必ず医師と相談しましょう。
インスリン注射の回数
インスリンを4回打つ強化インスリン療法は血糖コントロールには最も適した打ち方になります。しかし、患者様によっては、仕事をしていて、どうしても昼が打てない方や今までインスリンを打ったことがなく、いきなりたくさん打つことに抵抗のある方がいらっしゃいます。当院ではBOT(Basal supported Oral Therapy)と呼ばれる治療を採用しており、こちらは1日1回で効くインスリン製剤と飲み薬を併用する治療法です。注射が1日1回だけで良いため、インスリン注射に抵抗のある方でも始めやすく、入院なしで導入することができます。ただしBOTでも血糖コントロールが上手くいかない場合は、インスリンを打つ回数を増やす必要があります(2回打ち、3回打ち、4回打ち)。インスリン量や回数を減らすためにはやはり日頃の食生活が重要になってきます。
低血糖とは
低血糖とは
糖尿病の飲み薬やインスリン注射によって、血糖値が正常値よりも下がり過ぎてしまう状態を低血糖と言います。空腹になりやすい食事前に、運動や入浴などをしたり、いつもより食事の量が少なかったり、薬を増量した時などが起こりやすいとされています。
低血糖の症状
- めまい
- ふらつき
- 手の痺れ・ふるえ
- 動悸
- 冷や汗
- イライラ
低血糖でみられる症状の例
糖分は体の大事な栄養素で特に脳みそで多く消費されています。めまい、ふらつきといった症状を放置していると、頭に栄養が行かなくなってしまい、意識がなくなって倒れてしまいます。
いつもと身体の状態がおかしいと感じた時には、すぐに糖分を摂取出来る様に、飴玉やブドウ糖などは持ち歩くようにしましょう。また、低血糖を繰り返す場合は、診察予定日まで待たずにすぐに来院して診察を受けてください。
シックデイとは
体調が悪く、食事が摂れない状態をシックデイと言います。食事を摂らないのに、いつも通りに薬を服用したり、注射を打ったりすると、低血糖になってしまいます。食事が摂れないときは基本的に飲み薬は中止にします。またインスリン注射を行っている場合は、先に血糖を測り、その数値に合わせてインスリン量を調整します。食事を摂れない状態が続く時は、早めに受診してください。
また検査や手術などで、食事が摂れないときも同様に薬の調整が必要になりますので、医師や看護師に必ず確認しましょう。